第5章 ツンデレ、風邪を引く
「…今取り込み中なんだけど」
電話に出たリアンくんは不機嫌な声でそう言う。
一体相手は誰なんだろう?
そう思っていると、1分も経たないうちに彼は電話を切った。
「電話の相手…誰だったの?」
「…二階堂」
「え…」
「今マンションの前にいるから、すぐ部屋まで来るって。…ったく、タイミングわりーな」
「あっ…じゃ、じゃあ私帰るよ」
出来る事なら二階堂さんと顔を合わせたくはない。
リアンくんと2人きりでこの部屋にいた事が知られたら、どう思われるか…
「なんで?帰る必要無くね?」
「いや、あるでしょ!私がいたら邪魔だろうし」
「邪魔な訳ねーだろ。…つか、二階堂もアンタと話してみたいってこの間言ってたしな」
「え…?」
リアンくんとそんなやり取りをしていると、インターフォンが鳴らされた。
…どうやらこの場から去るタイミングを逃してしまったらしい。
「…ああ相沢様、いらっしゃっていたんですね」
「す、すみません!すぐに帰りますので!」
現れた二階堂さんにお辞儀して荷物を手にする。
けれど彼からは意外な言葉が返ってきた。
「私の方こそお邪魔をしてしまって申し訳ありません」
「い、いえ!とんでもない!」
「これからリアン様に夕食をお作りする予定だったのですが…宜しければ相沢様も召し上がっていかれませんか?」
「そんな…私は……」
「食ってけよ」
そう言ってきたのはリアンくん。
私が戸惑っていると、二階堂さんも「是非」と笑顔を浮かべる。
(こ、断りづらい…)
結局私はノーと言えず、夕食をリアンくんの家で頂く事になってしまった。
「あの…お夕食ありがとうございました。すごく美味しかったです」
「お口に合ったようで何よりです」
二階堂さんが作ってくれた料理はどれも絶品だった。
仕事柄そういう事が気になる私は、そのレシピや作り方を教わりたいくらいだ。
「あの…じゃあ私、そろそろ…」
気付けばもうすぐ夜の9時。
明日も早いし、いつまでもここにいる訳にはいかない。
「…泊まってけば?」
「っ…」
二階堂さんの前で何て事を言うんだろう。
まるで私たちが"そういう"関係みたいに思われる。
けれど二階堂さんは特に気にする風でもなく、穏やかな表情を浮かべていた。
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