第5章 ツンデレ、風邪を引く
「それじゃあリアンくん、お大事に」
「…なんだよ、ホントに帰るの?」
泊まっていくよう提案してきたリアンくんの申し出を断り、今度こそ帰り支度をする。
すると二階堂さんが私を家まで送ると言ってきた。
「いえ、私なら大丈夫ですから…」
「いけません。こんな暗い夜道を女性が1人で歩くなんて」
「そうだよ。二階堂車で来てるし、家まで送ってもらえよ」
「…でも……」
「言う事聞かねーなら、今すぐここで犯すけど」
「っ!」
またしても私は断りきれず、結局二階堂さんに車で送ってもらう事になった。
そして…
(…うぅ、気まずい……)
当然車内では二階堂さんと2人きり。
何を話せばいいのか分からず、私たちの間には重い空気が流れる。
けれど先に沈黙を破ったのは、二階堂さんの方だった。
「相沢様…今日はリアン様の為にありがとうございました」
「い、いえ!」
「貴女には本当に感謝しております。貴女と出会ってから、リアン様はよく笑うようになりました」
「…え……?」
「リアン様の生い立ちについてはもうご存知ですか?」
「……、はい…そこまで詳しく聞いた訳じゃありませんけど…」
彼のお母さんは、お父さんの愛人だったという事…
そのお母さんも早くに亡くなり、引き取られた先の家には上手く馴染めなかったという事…
「私はリアン様がお屋敷にやって来た頃からお世話をさせて頂いておりますが…。初めこそリアン様も新しい御家族に馴染もうと努力されておりましたが、結局上手くいかず……そのうち御家族以外の人間にも心を開かなくなってしまったのです」
「……、」
「だから貴女の話をお聞きした時は本当に驚きました」
「でも…私は別に、リアンくんに特別な事をした覚えは無いんですけど…」
正直今でも解らない…何故彼が私に好意を持ってくれているのか。
彼は私の雰囲気が好きだと言っていたが、その理由も何だか曖昧だし実感が湧かないのだ。
「きっと他の人には無い魅力を貴女はお持ちなのでしょうね」
そう言って二階堂さんは微笑んだ。
そして、「これからもリアン様を宜しくお願いします」とも…
(宜しくって……きっと他意は無いんだよね)
後日私はまんまと風邪を引き、リアンくんにセクハラまがいの看病をされたのはまた別の話だ…
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