第5章 ツンデレ、風邪を引く
…どうやら立ち入った事を聞いてしまったようだ。
これ以上聞くのは悪い気がして黙っていると、意外にもリアンくんは話を続けた。
「…母親が死んだのは俺が10歳の時。当然だけど、親父の本妻からもその息子からも俺は疎まれてて…。結局俺は新しい家にも家族にも馴染めなかった」
「……、」
「あの家で唯一俺の味方だったのは、二階堂だけだ」
「…リアンくん……」
だから二階堂さんにだけは心を許してるのかな…
「俺は早く自立したかったから、高校を卒業して家を出たんだ…。ホントは大学なんてどうでも良かったけど…うちの親父は世間体にうるさいからな。未成年の子供を働かせて一人暮らしさせるなんてとんでもないっつって、このマンションに住むのを条件に一人暮らしを許可したんだよ」
「じゃあこのマンションは…」
「このマンション自体親父のもんだから、俺の事を監視するにはもってこいなんだろ」
「………」
何だか想像以上に複雑な家庭のようだ。
早くにお母さんを亡くして、血の繋がっていない家族からは疎まれて……彼は一体どんな少年時代を送ってきたんだろう…
「…つまんねー話聞かせたな」
「ううん…。私こそ、知らないからって無神経な事聞いちゃってごめん…」
「…別にいい。アンタには何となく話しておきたかったし」
「リアンくん…」
「…で?やっぱ同情する?」
そう言う彼は自嘲した。
確かに心のどこかでは、彼の事を可哀想だと思っている自分がいる。
きっと経済的には困らなかっただろうが、彼はごく一般的な温かい家庭を知らずに育ったのだから…
私が正直に頷くと、彼は一瞬目を丸くさせた後何故かおかしそうに笑った。
「…アンタってホント面白れー」
「え…?」
「普通本人目の前にして、『同情してる』なんて言うか?」
「ぅ…、だって……」
「まっ、アンタのそういうとこも含めて俺は好きだけど」
「……、」
「変に取り繕ったり、媚び売ってきたり……俺の周りはそんなヤツばっかだからな」
そう言う彼はうんざりしたような表情だ。
ルックスも良くてお金持ちで……きっと下心を持って彼に近付いてくる人は多いのだろう。
「けど…アンタは他のヤツとなんか違う。初めて見た時から、オーラっつーか雰囲気っつーか……上手く言えねーけど、すぐに惹かれたんだ」
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