第5章 ツンデレ、風邪を引く
「なぁ…アンタもここに住めば?」
「は…?」
「部屋だって余ってるし、アンタの職場からだってそう離れてない。それに…」
「…?」
「…アンタの顔、毎日見られるじゃん」
「っ…」
いつもの意地悪そうな顔ではなく、柔らかく笑うその表情にドキリとしてしまう。
私は照れ隠しをするように、「冗談はいいから、病人は大人しく寝てなさい」と外方を向いた。
(ホント、心臓に悪い…)
只でさえ美少年なのに、あんな風に微笑まれたら誰だってドキドキしてしまうだろう。
(…変な事考えてないで、さっさとお粥作っちゃお)
そう気を取り直して、私はお粥を作り始めた。
「お粥出来たよ。食べられそう?」
お粥を乗せたお盆を手に、リアンくんの元へ戻る。
彼は怠そうに体を起こした。
「アレ…してよ」
「…?」
「"あーん"てヤツ」
「っ…」
何を言い出すのかと思えば……そんな恥ずかしい事出来る訳がない。
敢えてその言葉を聞き流していると、彼はムスッとした表情で外方を向く。
「…じゃあ食わねー」
「ちょっ、ちょっと…そんな子供みたいな事言わないでよ」
「…どうせ俺ガキだし。どうやったって、アンタの年には追い付けねーから」
「………」
何をそんなに拗ねているんだろう…
私はわざと大きな溜め息をついて、「…今回だけだからね」とレンゲを手にした。
湯気が出ているお粥をふーふーと冷ましてから彼の口元へ運ぶ。
「…あーんは?」
「……、あーん」
諦めてそう言うと、彼はようやくお粥を食べてくれた。
ホントに手が掛かるんだから…
でも…
(こんな広い部屋で一人暮らしなんて……淋しくないのかな)
「そう言えば……リアンくんて、本名は"リアン・スペンサー"っていうの?」
ふと疑問に思った事を口にする。
彼はあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「…ごめん。話したくなかったらいいんだけど…ちょっと気になったから」
「…別に。アンタになら話しても構わない」
そう言って一旦食べるのを止める彼。
「"高梨"ってのは、俺の死んだ母親の名字。俺の母親は、親父の本妻じゃなくて愛人だったんだ」
「え…?」
「母親が死んで、俺は親父の家に引き取られた。だから今の本当の名前は"リアン・スペンサー"ってだけ」
「……、」
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