第4章 まるで飼い主とペット
「ちょっ…、リアンくっ…」
文句を言おうとした口を彼の手で塞がれる。
そのまま私はズルズルと引摺られるように彼に連行された。
…何か言いたそうな皐月くんをその場に残して。
「ハァ…」
翌日…
朝から重い溜め息をつく。
(昨日は皐月くんに悪い事しちゃったな…)
昨日はあの後、リアンくんにレストランへ連れて行かれた(しかも高そうな)。
それはそれで楽しい時間だったが…ろくに挨拶も出来ず、あのまま別れてしまった皐月くんには悪い事をしてしまった。
それに…
――この人、俺のだから
(あの言葉もちゃんと否定しておかないと…)
「2人ともお疲れ様。後は任せちゃってもいいかな?」
「うん、大丈夫」
閉店後…
いつもは叔父さんが最後まで残っているのだが…今日はどうしても外せない用があるとかで、珍しく私たちより先に上がった。
静まり返った店内には、私と皐月くんしかいない。
(とりあえず昨日の事を謝ろう…)
そう思っていた矢先…
「あの……桜子さん」
先に声を掛けてきたのは彼の方だった。
「な、なに?」
「昨日の人……彼氏ですか?」
「…!」
いきなり核心を突く質問。
"昨日の人"とは、勿論リアンくんの事だろう。
「ち、違うの……リアンくんは彼氏じゃなくて…」
「でも昨日……あの人とキスしてましたよね?」
「っ…、あれは……」
まさかあの時見られていたなんて…
私は思わず赤面する。
「隠さなくてもいいですよ。…それとも桜子さんは…彼氏じゃない人ともキスするんですか?」
「……、」
じりじりと近付いてくる皐月くん。
私を追い詰めてくるようなその言動は、いつもの彼じゃないみたいで少し怖い。
「じゃあ俺とも……キス出来ます?」
「え…?」
反射的に後退りすると、トンッと背中に壁が当たる。
けれどすぐ目の前には皐月くんがいて…
「皐月く…、」
「桜子さん……好きです」
「っ…」
囁かれるようにそう言われた瞬間…
両腕はやんわり壁に縫い付けられ、半ば強引に唇を塞がれた。
(う、嘘…)
頭が真っ白になる。
すぐに唇を離した皐月くんは、互いの鼻先が付きそうな距離でじっと私を見つめてきた。
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