第4章 まるで飼い主とペット
「皐月くん!」
「っ…、桜子さん?」
遠目に見えたのはやはり皐月くんだった。
横断歩道を渡り、迷わず彼に声を掛ける。
「こんな所で会うなんて偶然だね。お買い物の帰り?」
両手いっぱいにスーパーの袋を持っている彼。
一人暮らしの彼にしては多過ぎるような気もするが…
「いえ…実はこれから施設に行くんです」
「え……施設に?」
「はい。月に数回、施設の子供たちに差し入れをしてて……それで」
言われて袋を見れば、確かに中にはお菓子ばかり入っている。
私は素直に感心したが、彼はどこかバツの悪そうな顔をしていた。
「皐月くん、良かったら私にも1つ持たせてくれない?」
「え…?」
驚いている彼の手から1つ袋を奪う。
彼はひどく慌てていたが、私は気にせず彼の歩いていた方角へ歩を進めた。
「ここで会ったのも何かの縁だし、ちょっとだけお手伝いさせて?」
「……、」
「と言っても、私が出来るのは荷物持ちくらいだけど」
「桜子さん…」
「それとも…お節介だったかな?皐月くんが迷惑ならやめるけど…」
「なっ…そんな訳ないです!俺…すごく嬉しいです」
「…良かった」
そう言ってもらえると私も嬉しい。
余計なお世話かもしれないが…この間彼から将来の夢を聞いて以来、何だか無性に応援したくなったのだ。
自分の生活だって大変だろうに、その上施設に差し入れまでしているなんて、彼は本当にどこまでイイ子なんだろう。
それから数分歩いた所にその施設はあった。
「桜子さんも良かったら寄っていってくれませんか?」
「え…?」
「きっと子供たちも喜びますから」
「でも…部外者の私がお邪魔しちゃっても大丈夫なの?」
「はい。それに桜子さんはここまで一緒に来てくれたんですから、もう部外者じゃありませんよ」
「……、」
そう言う彼に促され、一緒に正門をくぐる。
庭と思われる広場には、数人の子供たちが遊具で楽しそうに遊んでいた。
「あっ!皐月兄ちゃん!」
そのうちの1人がこちらに気付き、嬉しそうに駆け寄ってくる。
それに倣うように他の子供たちもわらわらと彼の元へやって来た。
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