第4章 まるで飼い主とペット
「皐月くんの家もこっち方面なの?」
「はい、ここから自転車で10分くらいですよ」
結局彼の言葉に甘えた私は、家まで送ってもらう事になった。
彼の家と逆方向なら悪いと思ったが、そうではないようで安心する。
「一人暮らしを始めたのは今年から?」
「いえ…俺は中学を卒業したと同時に施設を出たんです。早く自立したかったので、高校も行かずバイトしてました。施設長さんには、高校くらい出とけって反対されたんですけどね」
そう苦笑いする皐月くん。
大学へは大検を受けて入学したらしい。
「本当は大学へ行くのも悩んだんですけど…。俺、将来は施設長さんの跡を継ぎたくて。それなら大学へは行っておいた方がいいかなって思い直したんですよ」
「そうなんだ……皐月くんはすごいね」
「ははっ、そんな事ありませんよ。施設長さんの跡を継ぎたいっていうのも俺が勝手に言ってるだけだし…本当になれるかどうかなんて分かりません」
「でも皐月くんなら、きっとイイ施設長さんになれると思うな」
彼とはまだ知り合って間もないが、その生き方は尊敬に値する。
16歳で一人暮らしを始めて、働いて…
将来の夢までちゃんと持っているなんて…
「ねぇ皐月くん。こんな事言うのはすごく烏滸がましいんだけど…」
「…?」
「何か困った事があったら、私でも叔父さんでも頼ってね……出来る限り力になるから。ほら、私たちもう立派な仕事仲間だし」
「桜子さん…」
「…なんて。ちょっと偉そうだよね私」
「そんな事ありません、すっごく嬉しいです!」
そう言う彼の笑顔は、こちらの心まで和ませてくれる。
(ホントにイイ子だなぁ皐月くん…)
彼とそんな話をしているうち、あっと言う間に自宅へ着いた。
「送ってくれてありがとう」
「いえ…桜子さんとお話出来て嬉しかったです。それじゃ、お休みなさい」
「うん、おやすみ」
彼は軽く会釈すると、それまで押していた自転車に跨がって走り去っていく。
その背中が見えなくなってから私も部屋へ入った…
それから数日後。
今日は定休日だったので、私は可南子ちゃんのお見舞いに行っていた。
その帰り道…
(…あれ……もしかして皐月くん?)
道路の反対側で、彼に似た人物を見つけた。
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