第25章 苦い過去
「も、もしかしてあなたは…!」
「ああ…このホテルは我が社の傘下にある。私は社の代表取締役だ」
「…!」
こんなところで職権乱用をするつもりなど無かったが、背に腹は変えられない。
信じられないものでも見るかのように、パクパクと口を動かしている彼の胸ポケットに名刺を突っ込んだ。
「何かあれば責任は私が取る。彼女の部屋へ案内してくれ」
「か、畏まりました!」
ぺこりと直角にお辞儀をした後、彼は早速その部屋へ案内してくれた。
(…さて、ここからどうしたものか)
当然俺が部屋を訪れても、彼女はドアを開けてくれないだろう。
やはりこのボーイにひと芝居うってもらうしかないか…
「君にもうひとつだけ頼みがある…」
「…?」
*side リアン*
──ドンドンドン!
「…!?」
突然部屋に鳴り響いた、ノックというにはあまりに乱暴な音。
今まさに俺のモノを突っ込もうとしていた彼女も当然驚き、「一体何なのよ」と苛立ちながらドアの方へ向かった。
(…今のうちに……)
「くっ…」
さっきより少しは動かせるようになったとは言え、まだ言う事を聞かない体。
おまけに媚薬のせいで体の熱は燻ったままだ。
それでも何とか下着とズボンを上げ、ベッドの端に置いてあったスマホを取り返す。
その瞬間、ドアの方から「火災が発生しました!」という男の声が聞こえてきた。
「何ですって!」
「お客様も早く避難して下さい!」
知らせに来たのは従業員だろうか?
ドアチェーンをしていたらしい彼女が慌ててそれを外すと、部屋の中に2人の男が乱入してきた。
「ちょっ…、あなた!」
1人は予想通りこのホテルのボーイで…
もう1人は……
「兄貴…」
「…全く世話の焼けるヤツだ」
「……、」
ハァとわざとらしく溜め息をついた兄は、さっさと部屋からボーイを追い出すと彼女の方へ視線を向けた。
「困りますよ玲香さん…弟を誑かしてもらっては」
「っ…、火事っていうのは嘘だったの?」
「ええ…そうでも言わないと開けてもらえないと思いまして」
「………」
この状況に当然驚いている彼女。
それは俺も同じだったが…
(どうして兄貴がここに…)
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