第25章 苦い過去
「…お待たせ」
それから小一時間程経った頃…
パーティーの招待客にひと通り挨拶を終えたのか、玲香さんが俺の元へ戻ってきた。
その手には2つのグラスがあって…
「せっかくだから乾杯しましょ?」
「………」
そう言う彼女からグラスを受け取る。
そしてチンッと互いのグラスを軽く触れ合わせた。
「…どう?大学の方は」
「…それなりです」
「何よそれ…まぁリアンらしい答えと言えば答えだけど」
「玲香さんこそどうなんですか?今じゃもうすっかり有名人ですけど」
「それは私が一番驚いてるわ。趣味で書いてた小説がこんな脚光を浴びる事になるなんて思ってもみなかったもの」
口ではそう言うものの、彼女はとても嬉しそうだ。
それからしばらく他愛ない話をする。
そしてグラスの中も空になり、そろそろ帰ると彼女に告げようとした時…
「っ…」
不意に視界が歪んだ。
酒のせいかとも思ったが、今日はまだこの1杯しか飲んでいない。
「…リアン、どうしたの?」
「いえ…何でもありません」
「でも具合が悪そうよ…?今ボーイを呼んできてあげる」
「…大丈夫です。少し外の空気を…」
そう言ってその場を離れようとしたが、体が全く言う事を聞かない。
加えて急な睡魔に襲われる。
(…何だこれ……、まさか…)
「ふふ…効いてきた?シャンパンに入れておいた"おクスリ"」
「なっ…」
「リアンがいけないのよ?せっかく久しぶりに会えたのに、そんなつれない態度取るから…」
「どういう…つもり……」
「…今夜は帰してあげない」
「っ…」
耳元で囁かれた言葉と、甘ったるい香水の匂い…
それを感じたのを最後に、俺の意識は遠退いていった…
「…ん……」
それからどれくらいの時間が経っただろう…
次に目を覚ました時には、ホテルのベッドの上にいて…
「…気が付いた?」
「……、」
そう声を掛けてきたのは、バスローブ姿の玲香さんだった。
「…!アンタ一体…っ…」
体を起こそうとしたがまるで力が入らない。
そんな俺を見てクスクス笑いながら、彼女は俺の体の上に跨がってきた。
「あのクスリは強力だから…まだしばらくは動けないと思うわよ?」
「っ…、何のつもりだ!」
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