第25章 苦い過去
林 玲香は、俺が中3の時父に雇われた家庭教師だった。
元々父の友人の娘であった彼女は、当時すでに就職が決まっていた一流大学の4年生で。
彼女が8つも年下の俺を"オトコ"として見ている事にはすぐに気が付いた。
けれど当時自分自身の事も含め何に対しても無関心だった俺は、彼女に体を求められても拒まなかったのだ。
生まれて初めてのセックス…その感想は「こんなもんか」だった。
俺も男だ…好きでもない女相手でも勃つもんは勃つし、出るもんは出る。
だがそれだけ。
彼女とのセックスは、"オナニーを手伝ってもらっている"…そんな感覚に近かった。
それから俺たちは一度ならず何度か体を重ねる関係になったが、その後俺は中学を卒業…彼女も新社会人になるのをきっかけに俺たちの関係は終わった。
そして今日この日まで、彼女に会う事は一度も無かったのだが…
「会いにきてくれて嬉しいわ」
「あなたにはお世話になりましたからね…一応お祝いの言葉だけでもと思いまして」
「"お世話"…ねぇ。どっちの事かしら」
「…勉強を見てもらった事に決まってるでしょう」
「あら、つれない」
そう言って彼女は肩を竦ませてみせた。
出会った頃から綺麗だった彼女。
その美貌は今も健在で、今日も華やかなパーティードレスがよく似合っている。
…だからと言って彼女に対し何の感情も持てないけれど。
「ねぇ…パーティーが終わったら付き合ってくれない?リアンももう二十歳でしょう?このホテルに良いバーがあるのよ」
「…遠慮しておきます。明日も朝早いので」
「あら、明日は日曜よ?それとも…カノジョとデートの約束でもしてるのかしら」
「…そういう事にしておいて下さい」
本当にデートの約束をしていた訳ではないが、断るには持ってこいの口実。
俺の言葉を聞いて一瞬目を丸くさせた彼女は、「残念」と言って持っていたグラスに口を付けた。
「じゃあ私の挨拶回りが終わったら1杯だけ付き合ってよ。そのくらいならいいでしょう?」
「………」
「女に恥をかかせるつもり?」
「…解りましたよ」
ハァと溜め息をつき、渋々彼女の誘いを受ける。
その事を後に後悔するなんて、この時の俺はまだ夢にも思っていなかった…
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