第25章 苦い過去
「…アンタも来てたのかよ」
「まぁ一応…彼女は私の知り合いでもあるからな」
俺は今高級ホテルのパーティー会場にいる。
知り合いの小説家が大きな賞を獲ったとかで、その受賞パーティーの招待状を貰っていたのだ。
そこには会いたくなかった男…兄のジョエルの姿もあった。
「それにしても珍しい…お前がこんなパーティーに参加するなんて」
「…別に来たくて来た訳じゃねーよ。後でゴチャゴチャ言われんのが面倒だったから来ただけだ」
「…ふーん」
何か含みのある反応。
兄貴のこういう所は昔から嫌いだ…言いたい事があるならハッキリ言えばいいのに。
「俺が来たら何か不都合でも?」
「誰もそんな事言ってないだろう。私はお前が昔のオンナに未練があるから来たんじゃないかと思っただけだ」
「っ…、あの女はそんなんじゃねぇ」
「ふ…そう恐い顔をするな。冗談だよ」
「………」
容易く兄の挑発に乗ってしまう自分が恨めしい。
「今はお前にも"愛しのカノジョ"がいるんだったな…。そう言えば彼女は元気か?」
「アンタには関係ないだろ」
そう兄貴を睨み付けた時だった。
俺たち兄弟の元へやって来た1人の女…
「あなたたち…その年になっても兄弟喧嘩だなんて相変わらずね」
「っ…」
「これはお見苦しいところを…。主役の貴女の方からご挨拶に来て下さるとは光栄です」
兄貴はそう言って女に会釈した後、「この度は受賞おめでとうございます」と祝いの言葉を述べる。
彼女こそこのパーティーの主役であり、今ではすっかり有名人になってしまった小説家の"林 玲香"だ。
俺がガキの頃家庭教師をしてもらっていた相手であり、俺の"初めて"の女でもあった。
「久しぶりに会った2人には積もる話もあるでしょうから邪魔者は消えますよ。私も挨拶回りに行かなければなりませんので」
「失礼します」と言って兄貴はその場を立ち去る。
残されたのは当然俺たち2人で…
「久しぶりねリアン、元気だった?」
「…ええ、お陰様で」
「ふふ…無愛想なところは相変わらず。でも私が思った通り…ううん、それ以上にイイ男に成長したわね」
「………」
.