第22章 ゆく年くる年
「ありがとう…もう大丈夫」
「良かった…桜子さんの綺麗な指に傷が残ったら大変ですから…」
「……、」
相変わらずこちらが照れ臭くなるような事をさらっと言う皐月くん。
すぐに手を放してくれるかと思ったが、指先に触れるだけのキスをしてくる。
「さ、皐月くん…?」
「………」
無言で見下ろされ、その真剣な瞳に思わずドキリとしてしまった。
徐々に近付いてくる彼の顔…
思わず目を閉じると、唇にチュッとキスをされる。
「すみません…我慢出来ませんでした」
「……、」
「お蕎麦の前にもう少しだけ…桜子さんに触れてもいいですか?」
「…え……?」
ガスの火を止めた彼が再び唇に触れてくる。
やんわり腰を引き寄せられ、さっきとは違う深いキス…
「んっ…、」
クリスマス以降仕事では彼と顔を合わせていたが、こうして触れ合うのはあの日以来だった。
甘く深いそのキスについ酔いしれてしまう。
「だめ…、お蕎麦伸びちゃうよ…」
「お蕎麦もイイですけど…桜子さんの方がもっと魅力的なんで…」
「っ…」
結局年越し蕎麦にありつけたのは、それから10分後の事だった…
「そうだ…桜子さんさえ良ければ、これから初詣に行きませんか?」
時刻は23時。
お蕎麦を食べた後、しばらくまったりテレビを見たり他愛ない話をしたりしていたが、不意に皐月くんがそう提案してきた。
毎年初詣は元旦に行く事が多いけれど、せっかくのお誘いだ…たまには夜行くのも良いかもしれない。
私と皐月くんはしっかり防寒具を身に着け、近所の神社へお参りに行く事にした。
(うぅ…やっぱり夜は寒いなぁ…)
マフラーも手袋も身に着けてはいるが、さすがにこの時期の夜は冷える。
ふと皐月くんを見上げると、彼の首元には私がプレゼントしたマフラーが巻かれていた。
(良かった…ちゃんと使ってくれてる)
思わず口元を綻ばせれば、自然と手を握ってくる彼。
「これなら少しは寒くないですか?」
そう言われ、繋がれた手を彼の着ているコートのポケットに仕舞われた。
「うん…あったかい」
「…良かった」
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