第22章 ゆく年くる年
(今年も今日で終わり…)
今日は12月31日。
私は家で年越し蕎麦を作っているところだった。
もうすぐ皐月くんがやって来る。
「今年最後の日も一緒に過ごしたい」と彼に言われたからだ。
当然私も同じ気持ちだし嬉しい。
(リアンくんは今頃イギリスか…)
彼もまた私と過ごしたいと言ってくれたが、そうもいかなかったようだ。
年越しは、現在イギリスを拠点に仕事をしている彼の両親の元へ挨拶に行かなければならないそうで、昨日日本を発つと言っていた。
『わざわざイギリスにまで行ってあんなクソ親父の顔なんて見たくねーけど…いつかアンタとの仲を認めてもらう為だ。今は大人しく言う事聞いて…あの人に文句言われねぇような一人前の男になってやる』
そう言っていたリアンくん。
私との事をそこまで考えてくれているなんて…
(私はちゃんとお返し出来てるのかな…)
ついそんな事を考えてしまう。
リアンくんと皐月くんと今の関係になって半年…
色々な事があってあっという間だった。
彼らと出会った春…あの日叔父さんに買い出しを頼まれていなかったら、私は2人と今のような関係にはなっていなかったかもしれない…
そう思うととても不思議な気分だった。
──ピンポーン…
「…!」
そんな事を考えながらお蕎麦を茹でていると、ちょうどインターフォンが鳴った。
きっと皐月くんだ。
「こんばんは」
「いらっしゃい」
ドアの前にいたのはやはり皐月くんで。
何か差し入れを買ってきてくれたのか、その手にはコンビニ袋が提げられている。
「もうすぐお蕎麦出来るから、座って待ってて」
「はい、ありがとうございます」
彼が私の部屋に来るのはクリスマス以来だ。
そう、あの忘れもしない夜以来…
(うぅ…思い出してきちゃった…)
私はこの部屋で、リアンくんと皐月くんと…
「あっつ…!」
つい余計な事を考えてしまったせいで、鍋に手が触れてしまった。
私の声を聞いた皐月くんが慌ててキッチンへやって来る。
「桜子さん、大丈夫ですか!?」
「うん、平気…ちょっと鍋に指が当たっちゃっただけだから…」
「早く冷やさないと…」
「ぁっ…」
私の手を掴み、赤くなっている指を水道水で冷やしてくれる彼。
お陰ですぐに痛みも和らいでいった。
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