第20章 ワンコの憂鬱
「なぁ…今時間ある?せっかく会ったんだし、少し話せないか?」
「……、」
颯ちゃんにそう言われ一瞬悩んだが、私も彼と話したいという気持ちがありその誘いを受けた。
「でもマジでびっくりした…桜子とこんな所で再会するなんて」
「私の方こそびっくりしたよ…急に呼び止められるんだもん」
それから近くのオープンカフェに移動した私たち。
彼とは同じ大学だったので、会わなくなってまだ1年も経ってはいないが、それでも互いに積もる話はある。
颯ちゃんと付き合っていたのは、大学2年の夏から大学3年の冬まで。
私にとっては初めての彼氏だった。
初めてデートしたのも、キスをしたのも、それこそHをしたのも…
彼と付き合っている時は本当に楽しかった。
けれど彼の就職活動が本格的に始まってからはすれ違いばかりで…
今の私ならもう少し相手を思いやる事が出来たかもしれないが、あの時の私にはそんな余裕が無く互いを傷付け合う事もしばしばだった。
そしてそのまま別れる事になり、それ以来彼とは一度も連絡を取っていなかったのだけれど。
「つーかお前…すっげー綺麗になっててびっくりした」
「も、もぅ…そんなに褒めたって何も出ないから」
「ははっ!そうやって照れるとこも変わってないな」
「…そう言う颯ちゃんは変わったね。昔はそんな歯の浮くような台詞言わなかったでしょ?」
「俺だって少しは大人になったっつーの」
そう笑いながらコーヒーに砂糖を入れる彼。
甘党なところはあの頃から変わってないようだ。
「そう言えばお前…今、彼氏はいるの?」
「……、」
その質問にこくりと頷く。
流石に彼氏が2人いるとは言えなかったが…
「そりゃそうか…周りの男が放っておかねーよな」
「そ、そんな事はないけど…。颯ちゃんは?」
「ああ、俺もいるよ。同じ会社の先輩」
「へぇ!年上彼女?」
「まぁな」
そう言って彼は少し照れ臭そうに頭を掻いた。
何だかその様子が可愛くてクスクスと笑ってしまう。
それからまた他愛ない話を続けた。
今の生活…お互いの仕事の話など。
そして日が暮れ始めた頃、名残り惜しいとは思いながらも彼と別れた。
お互いもう恋愛感情は無い。
彼にも新しい彼女と幸せになってほしい…
そう思えるのは、きっと今私自身が満たされているからだろう。
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