第20章 ワンコの憂鬱
(うぅ…やっぱり……)
ある日の夜…
体重計に乗った私は、その数値を見て焦りを感じた。
薄々気付いてはいたけれど、体重が2キロも増えていたのだ。
夏が終わってからは食欲も増し、以前よりも確実にお腹や背中がぷにぷにしている。
(こんな体、リアンくんにも皐月くんにも見せられない…)
そう自己嫌悪し、その日から私はダイエットに励む事を決意した…
*
それから3日後の日曜日…
今日は1日皐月くんと過ごしていた。
外でデートした後、夜はいつものように彼が私の家へ立ち寄る。
けれどいつもと違ったのは…
「桜子さん…」
「っ…、ま、待って…!」
「…?」
ソファーに座ってキスを交わすと、そのまま彼に押し倒されそうになる。
この後の展開が予測出来た私は、慌てて彼の体を押し返した。
(痩せるまでは絶対にH出来ない…!)
「ご、ごめん…今日はちょっと……」
「……、」
拒まれるのが予想外だったのか、目を丸くさせている皐月くん。
思えば、こうして彼を拒んだのは初めてかもしれない。
本当はちゃんと理由を話せば良いのかもしれないが、理由が理由なだけに恥ずかしくて言い出せなかった。
「そう…ですか」
「……、」
明らかに落ち込んだ様子の彼。
その表情を見て罪悪感が募る。
けれどもう一度謝ろうとした時、彼は優しい笑みを浮かべ「そういう日もありますよね」とそれ以上は追及してこなかった。
(ごめん、皐月くん…)
今の私の体型を見たら…幻滅とまではいかなくても、きっとガッカリすると思うから…
結局その日は彼とHをせず、ただ他愛ない話をして別れた。
この事が原因で、後に彼を傷付けてしまうなんて思いもせずに…
*
「…桜子?」
「…?」
それから更に1週間後…
買い物をした帰り道、聞き覚えのある声に呼び止められた。
声のした方へ視線を向けると、そこには…
「…!颯ちゃん!?」
「やっぱり桜子か!」
私のよく知る男性――橘 颯太が立っていて。
「久しぶり!元気だったか?」
「う、うん…颯ちゃんは?」
「俺も元気だよ」
そう言って彼は無邪気に笑う。
何を隠そう彼は私の元彼であり、色んな意味で"初めての人"でもあった。
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