第16章 ゲームとお仕置き
ジョエルさんはどこまで本気なのか分からない。
けれどじっと私の目を見つめてくる彼の表情は急に真面目なものになって…
「…貴女は本当にお人好しですね。苦手なお酒を飲まされてこんな所に連れ込まれたというのに、まだ警戒心が薄いようですが」
「そ、そんな事ありません…!」
「ああ、それから…さっき貴女が言った事でひとつ訂正させて頂きたい事があります」
「…?」
私の髪から手を離した彼が、今度は優しく頬を撫でてくる。
「さっき貴女は、弟と別れても私には何のメリットも無いと仰いましたね?…でもそれは違います」
「…え……?」
「傷心の貴女につけ込む事が出来るんですから…私には大いにメリットがありますよ?」
「っ…」
「ふふ…顔を赤くさせて本当に可愛いですね」
「……、」
…このままではまた彼のペースに飲まれてしまう。
私は彼から離れ、帰るので服を返してほしいとお願いした。
「正直まだ帰したくはありませんが…ゲームは私の負けですから、今日のところは大人しく引き下がりましょう」
そう言う彼に元々着てきた服を返してもらい、脱衣所で素早く着替えを済ませる。
「今タクシーを手配しますから、少し待っていて下さい」
「だ、大丈夫です…まだ電車がある時間ですし」
「いけません…まだ完全にお酒も抜けていないでしょう?」
「…誰のせいですか」
「……。そう言われると反論出来ませんが…貴女にも良い教訓になったのでは?」
「………」
全く悪怯れていない彼が憎たらしい。
でも彼の言う事も一理ある…これからはもう少し考えて行動しなくては…
「…それではお休みなさい」
ホテルの出入口まで見送りに来てくれたジョエルさん。
私は彼に無理矢理握らされた1万円札を手にタクシーへ乗り込む。
「今度またデートに誘わせて下さい」
「え、遠慮しておきます」
「ふふ…つれないですね」
そう言う彼の顔が近付いてきたと思った時にはもう、唇を奪われていた。
「ジョ、ジョエルさん…っ」
「…最後まで気を抜いてはいけませんよ?」
「っ…」
結局彼の目的は何だったのか…
本気で私とリアンくんの仲を引き裂こうとしている訳ではなさそうだし…
私は携帯電話を手に、車内で大きく溜め息をつく事しか出来なかった…
(リアンくん、怒ってるよね…)
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