第14章 疑惑と嫉妬
気付くと私は、皐月くんの腕の中で嗚咽を漏らしていた。
一度溢れた涙は止まる事を知らず、じわりと彼の服を濡らしていく。
「…嫌なところがあったら……私…、直すから…っ…」
だから…他の女の人なんかに靡かないで……
勝手な事を言っているのは解っている。
それでも私は皐月くんを自分の元に繋ぎ止めておきたいのだ。
「ッ…、桜子さん…っ」
「んっ…!」
私を壁に押し付けた彼が強引に唇を奪ってくる。
初めは驚いていた私も彼の首に両腕を回し、その熱いキスに応えた。
「嫌いになんか…なる訳ないでしょう?」
「……、」
「俺には…桜子さんだけなんだから」
「っ…、皐月くん……」
キスの合間に切羽詰まった声でそう言った彼が再び唇を重ねてくる。
今度は激しいだけじゃなく優しく…
そうしてしばらくキスを続けた後、私たちはようやく落ち着いて部屋の奥へ移動した…
「すみません…俺、軽率でした」
一昨日の事…そして過去の事も全て話してくれた皐月くん。
私の誤解だった事が分かり、ホッと胸を撫で下ろす。
「私の方こそ、皐月くん本人に確認もしないで…勝手に勘違いしてごめんなさい」
「いえ…あの状況なら誤解されても仕方ないです。紫さんとホテルに行ったのは事実ですし」
「……、」
「でも…本当に俺、彼女とは何もしてませんから」
「うん…解ってる」
こうしてちゃんと話し合えば、彼が嘘などついていない事は明白だ。
初めからこうすれば良かった…
「それから…さっき桜子さんが言ってた事ですけど…」
「…?」
「俺…桜子さんの嫌なところなんて1つもありませんよ?」
「っ…」
そう言えばさっき、私は何かとんでもない事を口走った気がする。
あの時は必死で、後先の事なんて考えていなかったが…
「強いて言うなら…もっと自分の魅力に気付いてほしい…かな」
「……、」
「俺が他の人になんか興味無いくらい、桜子さんに夢中だって事…もう少し自覚してほしいです」
「…皐月くん……」
互いに見つめ合った後、どちらからともなく唇を重ねる。
そして彼の手が私の胸に触れた時…
――ぐぅ…
私のお腹の虫が盛大に鳴いた。
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