第14章 疑惑と嫉妬
*side 桜子*
「あっ、可南子ちゃんおはよう」
「桜子さん!ビッグニュースですよぉ!」
出勤するなり、可南子ちゃんは着替えている私の元へ駆け寄ってきた。
そんなに血相を変えて一体何があったのだろう…?
「私、見ちゃったんですぅ!」
「見たって…何を?」
「昨日彼氏と繁華街歩いてたんですけどぉ、そこで皐月くんと綺麗な女の人が歩いてたんですよぉ」
「…え……?」
「しかも2人でラブホテルに入ってって」
「………」
声のトーンを落としてそう言う可南子ちゃん。
彼女は勿論、私と皐月くんの関係を知らない。
その話に耳を疑った私は、すぐに言葉を返す事が出来なかった。
「意外ですよねぇ…。皐月くんてどちらかと言えば草食系ってゆーかぁ…。時々お客さんに逆ナンとかされてるみたいですけど、全然興味無いって感じじゃないですかぁ。でも私たちの知らないところでやる事はちゃんとやってたんだなぁと思ってぇ」
「……、それって…ホントに皐月くんだった?見間違いとか…」
「あれは絶対皐月くんでしたよぉ。ほら、彼って背が高いから目立つし…。それに私、視力には自信あるんです!」
「………」
頭を鈍器で殴られたような衝撃。
自分の目で見た訳ではないが、可南子ちゃんがここまで自信を持って言うなら信憑性は高い。
(皐月くんが女の人とホテルに…)
彼に限ってそんな事…
「桜子さん…大丈夫ですか?」
仕事を終えた帰り道…いつものように皐月くんに送ってもらう。
今日1日様子のおかしかった私を心配してか、顔を覗き込んでくる彼。
「うん…平気」
「でも…今日ずっと元気無かったみたいですし…」
「………」
本当は彼本人に昨日の事を確かめたかった。
けれど…
(皐月くんの首にキスマークがあった…)
よく見なければ薄くて分からない程度のものだったが、恐らくあれはキスマーク。
何かの間違いであってほしいという私の願いは虚しく打ち砕かれたのだ。
「…桜子さん?」
「ホントに大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」
「……、」
「それじゃ…また明日。おやすみなさい」
ちょうどアパートに着き、私は逃げるように部屋までの階段を駆け上がった…
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