第14章 疑惑と嫉妬
「…その感じじゃ、彼女とはもうHしたんだ?」
「………」
「あんまり無理させちゃダメだよ?皐月の性欲ってばすごいんだから…。私がもう無理って言ってるのに強引にやり続けた事とかあったし…」
「…いい加減にしないと怒りますよ」
「何よ…つまんないの」
そう言って紫さんは俺の手を放した。
「恋愛には駆け引きだって必要でしょ?たまには彼女にヤキモチ妬かせるくらいがちょうどいいのに」
「…そんな事……怖くて出来ません」
「…え?」
「ずっと憧れてた人とやっと付き合えるようになったんです…。もしそんな事して彼女に嫌われたら…」
「………」
俺はもう…桜子さんのいない生活なんて考えられないから…
「…皐月変わったね」
「…?」
「あんたって人当たりはイイけど、他人には無関心て感じだったじゃない?そんなあんたがそこまで人に固執するなんてさ……その彼女がちょっと羨ましいかも」
「…え……?」
「…何でもないわよ」
俺の下から抜け出した紫さんは、ごくごくとペットボトルの水を飲む。
そう言えばもう具合いは良いんだろうか?
「あんなの演技に決まってるでしょ?そんな事も見抜けないなんて、皐月もまだまだね」
「なっ…」
「あんたにその気があるならホントにHしようと思ったけど…断られるどころか惚気られちゃったし、馬鹿馬鹿しくなったわ」
そう言って彼女は身なりを整え、部屋を出る準備をする。
「…こういう悪どい女もいるんだから、次は引っ掛からないように気を付けてね?」
「……、」
「…さようなら」
ホテルを出てすぐに別れた俺たち。
紫さんと会うのは多分これが最後…何となくそんな風に思いながら、俺は彼女の後ろ姿を見送った。
彼女には感謝している部分もある。
少なくとも、あの頃無感情に過ごしていた俺の心の隙間を埋めてくれたのはあの人だ。
それは恋愛感情には至らなかったが、もしあのままズルズル関係を続けていたら今頃どうなっていたか分からない。
でも…それももう過去の事。
今の俺には桜子さんしかいない。
桜子さんしか欲しくない。
こんなにも俺の心を揺さぶるのは彼女だけ…
(…桜子さんに会いたい)
たった1日顔を見ていないだけでそんな事を考えてしまう自分に俺は苦笑いした…
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