第6章 天文部
一緒に箱に入っていたプラスチックのナイフでパウンドケーキを切り分ける。
「…ねぇ、春香」
「うん?」
そろそろフォークとスプーンも増やさなくちゃいけない。
そう思いながら飛鳥の方へフォークとケーキの乗った皿を差し出した。
「学校、楽しい?」
「……珍しいこと聞くのね」
「まーね」
「楽しいわよ。そりゃ6年前から過ごしてきた学生生活より」
「そっか。うん、あたしは春香が笑ってんならいいや」
紅茶には角砂糖2個。それが飛鳥。
3年一緒に居れば味の好みだって覚える。
それもほぼ毎日一緒に居て過ごしてきた。
「飛鳥のお陰で楽しいのよ」
「ほーう……ねぇねぇ春香、お願いがあるんだけど」
「嫌な予感しかしない」
飛鳥がここまで露骨な笑顔で言ってくるんだからどう考えても私にとって良い話ではない。
「学祭でウチの科がファッションショーすんの知ってるでしょ?そのモデルに」
「いやよ」
「そこをなんとか!」
「いや」
「ちなみにデザインはこれでね」
「話を聞いて…」
差し出されたのは30枚近くのデザインだった。
この時期からもう考えているのかと驚いた。
「って、モデルやるなんて私は言ってないんだけど」
「ルールとして美容・被服・デザイン・芸能あたりの生徒はモデル禁止。だーから工業科でいっちばん可愛い春香にお願いしようと思って。それに多分、あたし以外にもそのうち声かかると思うんだよなー」
「…はぁ。ここで受けておいた方があとあと楽ってことね」
「そういうこと!」
めんどくさい。今年も学祭中に実家に顔を出しに行こうと思っていたというのに。
それでも親友の頼みだし断れないと思った私は飛鳥に相当甘いと思う。