第5章 春休み
のびた後に時計を見るとまだ10時。
「…ずっと思ってたんだけど、辰也は人と話す時あまり目を逸らすことないわよね」
「そう?」
「うん。私、すぐ逸らしちゃうから」
この辺は育ってきた環境のお国柄か何かなんだろうか。
私はどうも人の目を話すのは苦手だ。
自分の考えを相手に伝えるのもあまり得意と言うわけでもない。
「うーん…じゃあ春香さん、俺の目を見てよ」
「え、うん」
多分それが出来たのは5秒ぐらいだろう。
お風呂上がりだからか今はいつもと違って前髪を全部流して耳にかけている。
「もう無理」
溜息を吐きながらそう言うと目の前で意地悪く微笑んだ。
「3秒あれば人は恋に落ちるんだよ、春香」
いつもとは違う髪型で、雰囲気で、艶っぽく。
言葉が出なくて思わず真っ赤になる。
「ほら、俺は春香さんのそう言うところ可愛いと思うな」
「私はアンタのそういうとこ嫌い」
顔を逸らしながらそう言った。とてもじゃないけど見ることも出来ない。やっぱりこいつ腹黒だ。
爽やかなんかとほど遠い。絶対に腹黒だ。腹黒王子だ。
「でも緊張したよ?」
「嘘にしか聞こえないし胡散臭い」
「ひどい言われようだ」
「私の中で辰也は腹黒の意地悪な人。あと部屋が汚い」
「ちゃんと頑張って片付けてはいるんだけどな」
あの惨状からもう半年以上は経つんだろう。
それでも部屋が汚いというイメージは払拭できない。
「じゃあ今日遊びにおいでよ。綺麗な自信あるし」
「ふぅん…まぁいいか。どうせ隣だし」
そう、どうせ隣の部屋。
今日帰って着替えてから行っても全然問題ない。
「春香さんは環境変わっても平気?」
「うん、全然平気」
「そうなんだ、枕が変わったら寝れないとかってタイプかと思った」
「よく言われるけど私は綺麗好きなだけ。別に神経質ってわけでもないわよ」
眠かったら寝るし枕だって別に無いならなくてもいい派だ。
ただ部屋が目に見えるほど汚いとか言うのが駄目なだけである。