第5章 春休み
シャワーを出ると「男物だから大きいけど使って」と案外綺麗な字で書かれたメモと一緒にシャツとハーフパンツがあった。
いい匂いがする。一応部室に置いてあるものなんだろうか。
ありがたく使わせてもらう。
ドライヤーという代物は流石に無いようで仕方なくタオルである程度まで乾かすことにして医務室へと戻った。
「お帰り、春香さん」
「ん。あ、シャツとかありがとう」
「いいよ。いつもロッカーにいれてるし」
「…辰也の私服ですか」
「練習着の予備。安心してよ、ちゃんと洗ってあるし」
そういうことじゃない。
どういうことかと聞かれても面倒なので何も言わないでおく。
「…せめてもう少し髪の毛拭いたらどうなの」
自分の首からかかっているタオルで無理矢理腕を伸ばして髪を拭く。
「風邪引くわよ」
「その時はまた看病してもらうよ」
「面倒な人ね」
「看病自体はしてくれるんだ?」
「当たり前でしょ、自分で言うのもなんだけど私は優しい人間よ」
ある程度乾いただろうか。しかし綺麗な黒髪で羨ましい。
「…春香さん?」
「何かしら」
声がかけられたところで気付く。近い。
拭き終ってからベッドに腰掛ける。案外しっかりしている。
「…なんか凄いぐっとくるね」
「は?」
自分の髪を拭き始めたところで急にそんなことを言いだした。
「上下どっちも俺の服だし優越感って言うか」
「その一言で脱ぎたくなった私のことも考えていただきたいものね」
むしろ脱ぎ捨てなかった理性を褒めていただきたい。
彼も隣のベッドに腰掛けてニコニコともニヤニヤともつかない顔でずっと私の様子を見ていたんだった。
「そうだわ、思い出したんだけど」
「うん?」
「名前、呼び捨てでもいい。自分だけ呼び捨ては違和感だし」
「そうか。じゃあ呼ぶ機会があれば」
ある程度の必需品は鞄のポーチに入っているんで時々それを見て問題ないぐらいまで乾いてからぐっと伸びた。