第5章 春休み
急に私の話を聞きたいだなんて何かと思ってしまった。
しかしまぁ最後の最後に聞きたいことがそれとは。
「今まで何考えてるか分かんないとは思ってたけど腹の中が真っ黒だって言うのは分かったわ」
「うーん、だって春香さんなんか意地悪したくなっちゃうし」
「意味分かんない」
そう言えば飛鳥に「春香は好きな人に対してはMっ気あるよね」と言われたのを思い出す。
いやしかし。コイツにまでは無いはずだ。
むしろ目の前のこいつにまでそれが見透かされていたら死にそうになるほどいじめられそうだとも思う。
「でも王子なんだ」
「えぇ、そうね」
「じゃあ春香さんはお姫様だね」
「自分で言うのもなんだけどお姫様って柄じゃないと思う」
それはすぐに否定できた。
私は王子様と言うのに並々ならぬ憧れはある。
でも自分がお姫様と言われるのは何か違う気がした。
「そんなことないよ。俺からみたら十分春香さんはお姫様だ」
この前のパーティーの一件以来。
私はどうやら彼の顔の造形が好きだということに気付いた。
そんな風に真面目に言われるのは恥ずかしいとさえ思う。
「…そう」
これ以上構ってられない。そう思って鞄からいつも通り本を取り出してそのまま読み始めると目の前の彼もまた立ち上がって本棚へと向かったんだった。