第3章 大学1年 冬
ゆさゆさと体を揺すられて一体誰だと思う。
目を開けるとそこには氷室君が居た。
「…なに、」
「7時だよ」
「……んー………」
あぁ、そうだ。起こしてって言ったんだ。
のそのそと起き上がってぐい、と伸びる。
「まだ眠そうだね」
「んー…ねむいけどお夕飯作らなくちゃ……」
「俺が作ろうか?」
「お客さんにそんなことさせらんない…」
その義務感から気だるい体に鞭打つようにベッドから出てキッチンに向かう。
寝るんじゃなかったなぁと思いながらも手は慣れたように動く。
「日向さん、大丈夫?」
「平気…まだ眠いだけだから」
「そう?あ、なら、こっち向いて」
「んー?」
パスタの麺を茹でながら言われた通りに氷室君の方を向くと、小さくリップ音がした。
「…?ん?んん?今何したの?」
「眠り姫はキスで起きるだろう?」
凄い。恥ずかしげもなくさらっとそんなこと言った。
頬にはまだ感触が残っている。
「目は覚めたけど」
「なら何より。火使ってるから危ないしね」
「それもそっか」
びっくりした。そういや帰国子女だっけ。
このくらい挨拶なんだろうけど日本人にはするなよ。
っていうか私で良かったね、ほかの女なら勘違い起こすとこだよ絶対。
そうは思うけど顔はきっと真っ赤だと思う。すごい熱だ。
「お皿取ってきてくれる?戸棚の上から2番目」
麺をザルに入れて水気をとって市販のカルボナーラのソースをそのまま別の鍋で温めて。
適当に盛り付けてソースかけたらはい完成。
「あれ、そう言えば食べ始めるまで気付かなかったけど私が料理してるの見てて楽しかった?」
「うん。時々うとうとしたりハッとして起きたり顔真っ赤にしたりしてて可愛かったよ」
「質問の答えとちょっと違うけどまぁいいわ。美味しい?」
「それはもちろん。美味しい」
同じ部屋で2度目の夕飯。
自分の部屋に他人が居るというのは違和感を覚えた。
しかし食べ方の綺麗な男だと思う。
「ほんとに王子様みたいね」