• テキストサイズ

【黒子のバスケ】星降る夜に

第3章 大学1年 冬



今朝は美味しい炊きたてのほかほかのご飯の香りで目が覚めた。

「……?!」
「あ、おはよう。台所借りたよ」
「え、えぇ…ってあんた病人でしょ!」
「もう熱下がったんで大丈夫ですよ。それより随分寝てましたけど…」
「それは三限からだから平気。いくら熱下がったからって…」
「ご飯、冷めちゃいますよ?」
「…いただきます」

この野郎。
そう思いながら口に含んだ卵焼きは甘くておいしかった。

「おいしい」
「良かった、人に作ったことなんてなかったから」
「そう。普通に美味しいわよ」
「うーん…でも、昨日の日向さんの料理の方が美味しかったよ」
「風邪引いてたから舌マヒしてたんじゃないの」

あ、やばい。つい可愛くないことを言ってしまった。
気を悪くしたんじゃないかと盗み見ると何考えてんだか分からない笑顔を浮かべていた。

「…ねぇ、その敬語止めてくれない?」
「え?あぁ…うーん、でもなんか日向さんってお姉さんって感じがして」
「じゃあせめてその名字で呼ぶのやめて」
「…、春香」

少し困ったような笑顔を浮かべて呼ばれた自分の名前。
どきりと心臓が高鳴った。

「なんで呼び捨てなわけ」
「え、ダメ?」
「いいけど変な感じして気持ち悪い」
「気持ち悪いって…、なら春香さん」
「それでいい」

普段は飛鳥にしか呼ばれない自分の名前。
他の人になんて呼ばれ慣れなくてびっくりした。

「ごちそうさまでした。私、今日は三限から六限まではいってて家に居ないから。何か取りに行きたければ行けばいいし。
でも私が帰ってくるまでにはうちにいること。完治するまで帰す気ないから」

相手の言葉を聞かずさっさと部屋で着替えと準備を済ませて一応――リビングになるのか――戻るとわざわざ食器を洗っていたようだ。昨日の分もあるのに。

「氷室君よく考えたら単位平気なの?」
「ん?うん、大丈夫」
「そう。…それやったら大人しく寝てること。あと鍵かけといて」
「OK,気を付けてね」

いつも通りブーツのチャックをあげて立ち上がって鏡で身だしなみの確認。

「うん。行ってきます」
「いってらっしゃい」

思わずその言葉に振り返ってしまうと不思議そうな顔をされる。
なんでもないと言ってからまた前を向いて玄関を開けた。
…行ってらっしゃいなんて何年振りだろうか。
/ 57ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp