第6章 後悔は先に立たないのにやっちまうことは多い(前編)
「ニャンニャン、黒尾もいい加減にしとけって。飯食う時間なくなるぞ」
「へいへい、んじゃあ食いますか」
「いやだから購買行けてないんだってばー……」
思い出したように空腹を訴えてくるお腹を抱え、再び机に突っ伏す。
うう、ひもじい……でも、今あの戦場に向かったらたどり着く前にもみもみくちゃくちゃのボロ雑巾にされてしまう。それは嫌だ。
「早く買ってこいよ?今すぐ行けばなんか残ってんだろ」
きょとん顔するとますます可愛らしさに磨きがかかるね、やっくん。
でもきみも昨日見たでしょ、一緒に愛の逃避行した仲じゃないか察してくれよ。だからその唐揚げひとつくださいな。
「やっくん、あーん」
「えっ」
顔を上げておねだりすると、やっくんは驚いたのかお箸で摘まんでいた唐揚げを弁当箱へ落とした。
ついでに横目に見えた黒尾くんも目を見開いて……え、そんなに驚く?
「なに、そんな驚くこと?」
いっつもみんなして、周りなんて気にせずあーんしてくるじゃないか。
最初こそちょっとした抵抗感はあったものの、この一年で慣れすぎたわたしの辞書に今さら恥じらいなんて言葉など存在しない。
「いやだってお前、初めてじゃねぇ?自分からそんな……なあ夜久」
「あ、ああ……ニャンニャンが自分からあーんをねだってくるなんて…」
「「一年がんばった甲斐あった!!」」
「いやなにが?」
目の前でいきなり黒尾くんとやっくんは手を握り合った。
いや、だからなにがどうしたの一体?たまにこの二人の思考がわからない。それより早くその唐揚げください。
溜まった唾液を飲み込むと、やっくんの制服をちょいと引っ張る。
「やっくん唐揚げ、あーん」
早くよこせ。わたしの口はもう唐揚げの口になっているのだ。そのジューシーな肉汁を想像してあらたに涎が溢れそうなほどに。
「っわかった、今やるから……ほら、あーん」
「あー…」
やっくんは片手で鼻を押さえながらお箸で唐揚げを摘まんだ。
なんか少し顔が赤い気がするけど、今は唐揚げに夢中なので突っ込みはしない。