第6章 後悔は先に立たないのにやっちまうことは多い(前編)
思い出した。
『ねぇあれ、にゃんサマじゃない?』
『ホントだ!新歓のにゃんサマっ』
『制服にゃんサマかわいー!撮っちゃお』
ちょっと待て。それプライバシーの侵害だからせめて直接撮りにき…てほしくないな、うん。
兎にも角煮も………今夜はお肉にしようかな………兎に角とにかく盗撮だめ、絶対。
黒尾くんとやっくんにラーメンごちになって孤爪くんと会って衝撃話されたらうっかりにゃんサマフィーバー忘れてたとか……記憶力弱いにもほどがある。
昨日の新入生歓迎会で『にゃんサマ』コスプレさせられたせいで、わたしは登校中から女子たちの注目の的だった。
朝っぱらから不慣れな視線に晒され知らない生徒から声をかけられ続け、お昼になった今はもうぐったり机と熱烈ハグ中である。
「よお、大丈夫か?有名人」
「飯でも食って元気だせよ、にゃん太」
「黒尾くん、やっくん……もうダメだ…購買行けない、死ぬ…」
そう呟いてグゴゴ、とお腹を鳴らせば小さな笑い声と近くの椅子に座る物音が聞こえて頭を撫でられる感触がした。
うむ、この手の大きさはおそらく…
「やっくん!」
「うおっ、なんだ?」
勢いよく頭を上げればびくっと体を揺らすやっくんが目の前にいる。
「ふっ…当たった…ぶにゅ?」
「なーにドヤ顔してんだ?にゃん吉」
さすがわたし!そんな余韻に浸ろうとしていたら、横から伸びてきた指に遠慮なく頬を突かれた。
首をぐりっと動かし見ればニタッと楽しそうに笑っている黒尾くんの顔がある。
「なにすんの黒尾くん、そしてわたしはにゃん吉でもにゃん太でもにゃんサマでもないんですけど」
「にゃん太っつってんのは夜久だし?ましてやにゃんサマは自業自得じゃねーか、全部俺のせいにしないでくださーい」
「黒尾くんはほら、日頃の行いがあれだから。やっくんはもう天使なんだからしょうがないんだよ、あんだすたーん?」
「英語苦手なくせになにムリしちゃってんの。意味わかってんのかなー?ニャーちゃん。俺はいっつも品行方正デショ」
「英語できなくても現代文できれば生きていけるし。黒尾くんが品行方正だったらわたしなんかもう神だし」
きっぱり言い返してやったら鼻で笑われた。なぜだ、その奇跡の寝癖トサカ引っ張るぞこら。