第1章 ~春~ 4月
十分に満喫した店を出ると、辺りはすっかり暗くなり気温も随分下がっていた。思わず両手を口元へ運び、息を吐いて温める。
「エル、今日はありがとう。楽しかったよ」
「いえ、ご馳走になってしまって……本当にありがとうございました」
こちらが誘ったからと、エルヴィン団長が奢ってくれた。さすが、スマートな大人は違う。
「では、本日はここで失礼します。明日はお見送りさせてくださいね」
「あぁ、おやすみ。また明日な」
「おいエル、寝坊すんじゃねぇぞ」
「それは私のセリフです!師団長頼みますよ!」
愚痴だって言い合える仲。その上プライベートとはいえ、2人は上官だ。
二軒目を探しに街へ消えていく後ろ姿を、エルはその姿が見えなくなるまで見送った。
……さむい
寒さを感じ身が震える。
春先とはいえ、もう少し厚着をするべきだった。
さっさと帰って、シャワーを浴びて。少し本を読んだら寝よう。でもその前に……
エルは背後に立つ男へ身体を向けた。
「リヴァイ兵士長はこの後、どうされるんですか?」
「……帰るに決まってんだろ」
「じゃあ同じ方向ですね!ご案内します」
ぶっきらぼうな言葉に緊張しながらも、普段客人を相手にする用法で案内に務める。
しかしこれが、並みの貴族や議員を相手にするよりやりにくい。
約2時間いた店内で、ろくな会話も出来なかったのだから。
リヴァイの半歩先を歩くと、石畳にふれた靴底がコツコツと鳴った。
薄暗い路地に、その音が反響していく……