第1章 ~春~ 4月
「お前……足悪いのか?」
「申し訳ありません、目に付きますよね」
静かな空気を裂いたのは、無口な男の方だった。彼の視線は、動きの悪い私の足元に向けられている。
「謝る事はない。俺が無神経だった」
「そんな事はありません。お気遣い頂き嬉しいです」
正直、このまま会話が無いのでは……と思っていた手前、内心ホッとしているぐらいだ。
そして他にこれといった話題も思い浮かばず、なんとなく経緯の説明をはじめた。
それは休暇中の事故。
当時の事はあまり覚えていないが、馬車と正面衝突してしまったらしい。
結果として、右脚をスムーズに動かせなくなった。
と言っても、日常生活に支障をきたすレベルではないが……
「それからは現場を離れ、師団長の下で勤務させて頂いています」
日常生活に問題はないが、仕事に制限は出た。退団も考えた私に、居場所を用意してくれたのがナイルだ。
「今日は沢山愚痴をこぼしてしまいましたが……師団長は優しくて頼れる上官です。これでも尊敬しているんですよ?」
「あぁ。あんだけ聞けば、それぐらい分かる」
「え!?私愚痴しか言ってないですよね?」
「何言ってんだてめぇ。ナイルに随分と懐いてんじゃねぇか」
その言葉に、顔が赤くなるのを感じた。
ナイルを慕っているのが見え見えだったのか……なんだか恥ずかしい。
「仕事は順調か?」
「はい!楽しく働かせて頂いています」
「……ならいい」
そして彼は
とても、とても優しい笑みを浮かべた
先程までのしかめっ面とは全く違うそれに、胸がドクンと音を立てる。