第1章 ~春~ 4月
その夜
大通から1ブロック入った路地にその店はあった。店内へ入れば、すかさずウェイターがやってくる。
「いらっしゃいませ。上着をお預かりします」
「ありがとうございます。えっと……待ち合わせなんですが……」
店内は柱に掛けられたランプ。そして各テーブルに置かれたキャンドルが淡く灯り、落ち着いた空間を演出していた。
『高そうだな』なんて呑気な事を考えながらナイルの名前を出すと、ウェイターは馴れた様子で席までエスコートしてくれる。
店内最奥の個室、その中に彼等は既に着席しているとの事だ。
「こんばんは、遅くなり申し訳ありません」
「お疲れ、気にするな。俺らもさっき着いた所だ」
部屋へ入れば、ナイルが迎え入れてくれた。
光沢のあるテーブルクロスがかけられた机を挟んで、ナイルと向かい合うようにエルヴィンが。その横には見た事のない男性が腰を下ろしている。
あぁ、この人が団長の連れか
なんて考えつつ眺めていると、彼の顔がゆっくりとこちらへ向けられた。
「紹介するよ、うちの兵士長を務める事になったリヴァイだ。仲良くしてやってくれ」
そう紹介された男性は随分と小柄で。
目の下のクマや少しやつれて見える頬に、エルヴィンが昼間言った『随分無理をさせてしまって』という言葉を思い出した。
この人、具合でも悪いんじゃないか?とか。兵士長って何だろう?とか。様々な疑問が浮かぶが……
まずは自己紹介を、そう思った時だ。
「……おい、どういう事だ?俺は聞いてねぇ」
「え?」
その言葉に、エルは固まった。