第4章 ~冬~ 12月
数日後
遠慮がちに医者は言う。
「身体は順調に回復しているのですが……」
この期間に分かった事が一つ。
エルはおおよそ、14歳以降の記憶を失ったらしい。
『無理に思い出させて混乱させないように』
そんな言葉がなくても、伝える気は全くなかった。
出会った事を
喧嘩した事を
愛し合った事を
共に過ごした日々が
全て無かった事になったとしても。
このまま調査兵として生涯を終えるより
このままいつ死ぬか分からぬ男の傍にいるより
全てを忘れ、幸せに生きて欲しいと。
心からそう思った。