第4章 ~冬~ 12月
「……何故ここに居る」
「今日はあなたが産まれた日だから……どうしても、一言言いたくて」
そう言えば、彼は少し驚いたような素振りを見せた。
それはそうだ。私は貴方の誕生日なんて、知らない筈なんだから。
「お誕生日、おめでとうございます」
会ったら一番に伝えたかった言葉。
やっと言えた
それだけで、心が温かくなる。
「あぁ。ありがとう……な」
苦虫を噛み潰したような顔で、彼は答えた。
これは当たり前の反応。
避けられている事は分かっている。
ここからが本題。
でも……一体何から話そうか?
あれだけ沢山考えて来たのに。いざ彼を目の前にすると、頭の中は真っ白で。
伝えたい事があり過ぎて、口を開けば何を言い出すか分かったもんじゃない。
……でもまず
まずはあの手紙。
「えっと……これっ……」
しどろもどろしながら、カバンの中へ手を突っ込んだ時。
手紙を出すより先に、彼が口を開いた。
「気を付けて帰れよ。悪いが俺は……仕事に戻る。またな」
「え?……ちょっと待って!」
静止なんて全く効果はない。
踵を返した彼は、早歩きで互いの距離を開けていく。
「待って!!まだ私は……」
彼の背中を追うように駆けだせば、あっけなく足がもつれた。
自身の右脚を恨みつつ、石畳に身体を打ち付ける。
擦りむいた手の平から広がる、じんわりとした痛み。
上半身を起こせば、徐々に小さくなる貴方の背中。
……待って
私はやっと……
「リヴァイ!!」
エルは夢中で声を上げた。
その手には、転んだ拍子にすすけてしまった
あの手紙…………