第4章 ~冬~ 12月
12月25日 時刻は18時半
私はトロスト区の、時計台広場に居た。
広場の端っこ。小さなベンチに腰掛け彼を待つ。
別に、約束なんてしていない。
でも……彼はここに来てくれる。そんな期待を持って。
「寒い……」
エルは真っ白なマフラーに顔を埋めた。
これは、同室の友人が「頑張ってこい!」と貸してくれた物。
膝に置かれたカバンの中には、手紙と。小銭と。何故か野戦食。
「勝負時にはやっぱこれだろ!」と、訳の分からぬエールと共に、少し残念な上官がくれた物だ。
なんだかんだ、いつも私を見守ってくれる2人の顔を思い浮かべ……エルはそっと瞳を閉じた。
色んな声が聞こえる。
それは、男性だったり。
女性だったり。
大人だったり。
子供だったり。
瞼を上げ、道行く彼らを見てみる。
……見事に、知らない人ばかりだ。
狭い壁の中とはいえ、こうして沢山の人が暮らしている。
全員と出会う事など、不可能なのだ。
だとしたら
自分で選び歩いた道の上で、大切な人と巡り合い。愛し合うなんて……とんでもない奇跡じゃないか。
でも、その奇跡は偶然なんかじゃなくて
必然だと信じたい……
「エル?」
あぁ、この声だ。
……来てくれた
「こんばんは」
エルはそっと、ベンチから腰を上げた。