第3章 ~秋~ 10月
彼の右手には紅茶の入った紙袋。
彼の左手には、私の右手がすっぽりと収まっている。
半歩先を歩くリヴァイの顔は、暗い街並みも手伝って伺う事は出来ない。
でも、繋がれた手の力強さが私を安心させた。
「おい、この道であってるか?」
「はいっ!……このまま真っ直ぐ行くと、右手に見えてきます」
2人で辿る帰り道。
手の平から伝わる体温が暖かくて。
……名残惜しくて
一歩一歩踏み出す事に、路地に反響する靴音が虚しい。
あと少し……
あと少しで、もうお別れ。
そしたらまた、来月まで会えない。
ねぇ、貴方は私がこの一ヶ月。
どんな思いで過ごしたか分かる?
会いたくて
会いたくて
大きく膨らんだこの気持ち
こんな短い時間じゃ……
エルはリヴァイの手をグッと握り返すと同時に、その脚を止めた。
「どうした?」
繋がれた手はそのままに。
リヴァイがゆっくりと振り返る。
「……帰りたくない」
人気のない路地に風が吹き込み、エルの髪を揺らす。
「まだ、一緒に居たいです」
私にしては、大胆な発言。
でも、これは仕方がないのだ。
彼を誘う上手い言葉など、持ち合わせていないのだから。
「……ダメだ、今日はもう遅い」
否定の言葉が告げられる。
それでも勇気を出して、ずっと俯いていた顔を彼に向けた。
「もう少し一緒に居たい。ダメ……ですか?」
そう言ってリヴァイを見据えた。
正直に言えば、自信なんて全然無い。
それでも、彼の瞳が少し揺らいだのを感じた。