第3章 ~秋~ 10月
楽しかった店を背に、エルとリヴァイは夜道を歩き出した。
あれもこれもと、彼が料理を進めてくるものだから。久しぶりに限界まで食べた。はちきれそうな腹部を左手で撫でると、リヴァイがこちらの様子を伺ってくる。
「おい、大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃありません。もう食べれません」
「……悪かったな」
素直に謝る彼が、なんだか可笑しい。
「これだけ沢山奢った相手に謝るなんて、何だか矛盾してますね」
「よく分かってんじゃねぇか。ありがたく思え」
先程と打って変わり、強気の発言がまた可笑しい。笑う私を、彼が恨めしそうに見ている。
いつの間にか、こんな会話が出来るようになったんだな。と思うと嬉しくて。
エルは隣を歩くリヴァイへ向き直り、深く頭を下げた。
「本当に美味しかったです、ごちそう様でした」
顔を上げればアルコールで火照った体に、程よい冷たさの風。
気持ちいいな。なんて思いながら、私はバックに忍ばせていた小さな紙袋を取り出した。
「これ受け取って下さい」
「なんだ?」
「紅茶です、仕事の合間にでも飲んで下さい」
袋の中には、可愛くラッピングされた紅茶の缶が2つ。一緒に買い物へ行った日、彼が気に入った物だ。
「お前な、俺はこんな事してもらう為に……」
「男に格好つけさせたんですから、女にもちょっとした気遣いをアピールさせて下さい」
それは以前彼が口にした言葉。
今回も奢ってくれる事は、誘ってくれた時点で分かっていた。
「……仕方ねぇな」
渋々受けとるリヴァイは、それでも嬉しそうに見える。それは私の都合の良い勘違いだろうか?
私の右手にかかった紙袋。
その取っ手が、彼の掌に落ちる。
「行くぞ」
リヴァイはそう口にすると同時に、宙に浮いたままの私の手を取った。まるでこうする事が当たり前かのように。