第2章 ~夏~ 7月
「はい、お待ちどうさま!」
「エルちゃんいらっしゃい、邪魔しちゃってごめんなさいね。ゆっくりしていってね」
髪が可愛くなったと報告する女の子を、彼女の父親が抱えた。
その様子を目で追っていると奥さんが「デザート付けたから食べてね」と、他のお客さんに聞こえないよう小声で教えてくれた。
プレートにはプリンが添えられている。
……普段はない物だ
慌ててお礼を言う私に3人は「ごゆっくり」と言い残し、厨房へ消えてゆく。父親の肩越しに手を振る女の子が、たまらなく可愛いかった。
そして、残されたシチューからのぼる暖かな香り。
「食べましょうか!」
「あぁ」
そんな短いやり取りの後、2人でスプーンを手に取る。
やがてシチューを口に運んだリヴァイが「美味いな」と言ったから。
私は心底、ほっとした。
食事をしながらの会話は、互いのプライベートについて。
ここで新たに知ったのは、彼が『綺麗好き』だという事。調整日には家具を移動させてまで、念入りに掃除をするらしい。
「え、それって身体休まるんですか?」
「お前もそれを言うんだな」
「みんな思う事は大抵同じですよ」
そして私はといえば、最近読んだ本の話をした。
街で話題の本。どうしても欲しくて買ってみたら、期待を裏切らない内容だった。
リヴァイは恋愛小説でなければ、何でも読むらしい。
「読みやすくてオススメです」と伝えると、その流れで彼に貸す事になった。
本の貸し借り。そんな小さな約束が嬉しい。
じわっと、心が温かくなった。