第2章 ~夏~ 7月
「おいっ、もう少しゆっくり歩け」
「どうかされました?」
「……お前、脚悪いだろう?」
眉間にシワを寄せ、怪訝な顔をしている。これはきっと心配している表情なのだろう。
お礼の言葉を添えて「大丈夫」だとアピールすれば、彼は呆れたような。安心したような。まだ私には判断しきれない表情をした。
もっと彼を知りたいな。そんな思いが強くなると共に……
「……今から行くお店、お口に合えば良いのですが」
突然、そんな不安に襲われた。
よくよく考えてみれば、彼の食事の好みなんて分からないのだから。
「お前が通ってる店だろ?」
「でもほら、サンドイッチを口にされなかったと……」
「貴族からってのが気に入らねぇだけだ」
吐き捨てるような言葉と共に、思い切り顔をしかめたリヴァイ。
その表情は少し意外で、エルはクスクスと笑った。
彼は人として出来上がっている印象があっただけに、人間味溢れた言葉やしぐさが新鮮だ。
「だらしねぇ顔しやがって」
笑う私にきつい言葉が飛ぶ。
「兵士長もお顔崩れてますよ」
「てめぇ……言うじゃねぇか」
和やかな空気に甘んじて悪態をつけば、彼はふっと笑った。
知らない事は沢山あるのに、話していると楽しくて。
……目指す店がもっと遠くにあれば良いのに。
そんなズルい考えが私の脳裏を掠めた。
「お店が見えましたよ、あのグリーンの看板が目印です」
歩き馴れた道の先に見えたのは、穏やかなご夫婦が経営されている小さな食堂。
目的地は、すぐそこに……