第2章 ~夏~ 7月
それから程なくして。給湯室から戻ったエルは、淹れたての紅茶を卓上に並べた。
3つのカップから湯気が登る。
「おいエル、どこか美味い店知ってるか?」
なんの脈絡もない言葉をかけてきたのはナイルだ。いや、話の流れはあったのだろうが、今部屋に戻ったばかりで把握できない。
「食事ですか?」
「リヴァイがまだ食ってないんだとよ」
エルヴィン団長に事のあらましを聞けば、調査兵団に好意的な貴族が『移動中に』と、サンドイッチを差し入れてくれたそうだ。
しかし、リヴァイはそれを口にしなかったという。
「そうですね。よく利用する食堂なら近くにありますよ」
そう答えてからは、話が早かった。
エルヴィンとナイルがあれよあれよと話を進める。
「しょうがねぇなぁ。エル、お前今日はもう上がれ」
「え!?いいんですか?」
「その代わりリヴァイを店まで連れてってやれ。ちゃんと着替えて行けよ?サボってると思われるからな」
思わぬ展開にリヴァイの様子を伺うと、彼は紅茶を口にしながらナイルを見ていた。
「リヴァイ、こいつでも何か役に立つだろう。連れてけ」
「……いいのか?」
「今日はそんな忙しくねぇからな。まぁ、お前がエルより男の憲兵の方が良いってなら話は別だが?」
ニヤニヤと笑うナイルの言葉に、リヴァイは思い切り眉をしかめ……ソファーから立ち上がると、エルの手を取った。
「借りるぞ」
リヴァイはナイルにそう告げると、彼女を連れ執務室の扉を開けた。
「え!?あっ、お疲れ様です!」
突然の退勤。そしてリヴァイと『手を繋いでいる』という事実に、閉じゆく扉の向こうへ、それしか言えなかった。