第2章 ~夏~ 7月
「だからって、あんな夢を見るなんて……」
エルは小声で呟き、手にした書類で顔を覆った。
異常だ
いくら彼が気になるからって、あんないやらしい夢を見るなんて。
肩を落とし、小さくため息をつく。
「……兵士長の顔、見れる気がしない」
「あ?なんか言ったか??」
「いえいえ、独り言です」
「なんだ?気持ちわりぃな」
その時。執務室のドアがノックされた。
コンコンッと軽快な音に、腰を下ろしていた椅子から勢いよく立ち上がる。
「エルヴィン団長、リヴァイ兵士長がお見えになりました」
ドア越しの憲兵の声に、ナイルが入室の許可を出す。
ゆっくりと開かれる扉を、エルは緊張した面持ちで眺めた。
「よう!2人共よく来たな」
「お待ちしておりました。エルヴィン団長、リヴァイ兵士長」
上官と共に、仕事用の笑顔を張り付けて挨拶した。
我ながら何の動揺も感じさせない、素晴らしい声色だ。
息をするように出てくる言葉に、この仕事も板に付いてきたな。と感じる。
そう、この調子だ。
このままいつも通り、普段どおりでいい。
「リヴァイ兵士長、お元気でしたか?」
自責の念を断ち切るように、あえてリヴァイへ声を掛けた。彼の視線が、こちらを捕らえる。
……よし、全然大丈夫だ
そう思った時。
リヴァイの手が、エルへと真っ直ぐに伸びた。右手で頬を包むように触れ、親指で目の下をなぞる。
「お前、寝不足か?」
様子を伺うように覗き込まれ、エルは固まった。