第1章 ~春~ 4月
翌朝
エルはナイルと共に、宿舎前に停められた馬車の前に立っていた。もうじき出てくるであろう、団長と兵士長の到着を待つ。
「昨日は何時まで飲みに行かれたんですか?」
「10時には店を出た。今日が休みだったらなぁ……」
慕っている上官は眠たそうに片手で後頭部を掻き、呑気にあくびまでしている。
「しっかりして下さい。そんな姿、兵士達に見られたら示しがつきません」
「ったく……お前は手厳しいなぁ。男を甘やかすって事も学んだ方がいい」
「師団長は男性ではなく上官ですので。甘やかす必要はないかと」
「そうだぞナイル、エルの言う通りだ」
ふいに背後から掛けられた声。
驚き2人で振り返れば、隣に立つ上官より随分と爽やかなエルヴィン団長の姿。その後ろに立つリヴァイ兵士長も、清潔感たっぷりの出で立ちだ。
「おはようございます!昨夜はありがとうございました」
「こちらこそありがとう。エルのおかげで楽しかったよ」
エルヴィンは穏やかに答えると、ナイルと談笑をはじめた。
「リヴァイ兵士長はお休みになれましたか?」
「あぁ」
正面から向き合うと、こちらに向けられる彼の視線に、なんだかドキドキしてしまう。
……その時、彼のちょっとした変化に気づいた。相変わらず目の下のクマは凄いが、顔色は昨夜と比べ幾分マシに見える。
寝れたのは間違いなさそうだ。
「戻られたらお忙しいのでしょうが……お身体大切になさってくださいね」
すると彼は、少し間を置いてからただ一言。
「覚えておこう」
そう言い残し、エルヴィンに続いて馬車へ乗り込んだ。
「じゃあな2人共、また来月も泊まっていけ」
「お2人共お気を付けて。次はリヴァイ兵士長も執務室にいらしてくださいね!」
ナイルと共に彼らの乗った馬車を、その姿が見えなくなるまで見送った。