第5章 【It's you:加藤成亮】
「でも…そんなの、
やっぱり、ダメだよ……。
誰かを傷付けないと得られない幸せなら、
私は要らない…。」
「恵麻の気持ちはわかるよ…。
でも、今の俺は
家族を傷つけてしまうことは百も承知で
十字架を背負って
生きていく覚悟を決めたんだ……。
だけど、これは俺の問題だから。
これから、
俺の生活が変わったとしても…
キミは何一つ罪の意識を感じなくていい。
それはただの…俺のわがままなんだから。
今の、俺の願いは…1つだけだよ?
キミが自分のことを
大切に想える日が来てくれたら、
それでいい。
他には何も望まないから」
「……そんな日が、くるのかな…」
「うん、きっとくるよ。
だから…それまで、隣で支えさせてほしい……。」
*
「送ってくれてありがとう。。」
「……恵麻…?
何も望まないとは言ったけど…
音信不通だけは、勘弁ね。
あと…
行きずりの関係は、もう…止めて。」
別れ際にピシャリと諫められて。
彼に知られたくなかった自分を
突き付けられる―――。
けれども、
その声色は穏やかで。
「カラダだけの関係は
ココロの虚無感を助長するだけだから。
自分を大切にするって案外難しいけど…
キミが自分を大切にしてくれることが
俺の幸せでもあるってこと、忘れないで。」
「……うん。」
「できるよね?恵麻なら。」
柔らかく微笑んだ彼の手が
頭の上でポンポンと優しく跳ねて……。
「こっちの整理がついたら
また、連絡する。」
彼は優しさを私に刻んで
車を走らせていった―――。
*
恵麻と別れて程なくして、
彼女に、連絡を入れる。
"お疲れ様。
今日は、早く帰る。
それから…話がある。"
"お疲れ様です。
わかりました。
祐也は、
実家に預けておきます。"
"ありがとう。"
きっと、彼女は……、
そのやり取りで悟ったのだろう。
多分、俺と彼女は…
少しだけ、
似すぎていたんだ……。
案外、辛いもんだよな。
相手の考えが
わかりすぎるというのも―――……。