第2章 そういうところが好きじゃないんだ
「オレ、ずっと前から桃浜のことが好きなんだ。多分入学して、出会ってすぐくらいから。だから、てっきり好きだって伝えてあるものだと思ってたけど…そういえば、言ってなかったかもしれないな」
いい加減脳がパンクしそうだ。コイツは何を言っているんだ。
「え、じゃあ、なに?伊豆くんの中では、私には告白済みで、私と君は付き合ってることになってた、とか…?」
「いや、付き合ってるとまでは言わないが、オレの気持ちは伝わってると思って…桃浜もオレのことを嫌いじゃないんだろう、くらいは思っていた」
いや、端的に言って嫌いなんだけど。
「だから…押し倒してもいいと思ったの?」
「いや、それは…」
伊豆くんが少し口ごもった。
「その…好きな子の、あんなエロいところ見たら、なあ…」
そうだ。そういえば、私はオナニーを彼に見られていたのだった。思い出すと顔から火が出るほど恥ずかしくなって、飛び退くようにして、彼からさらに離れた。背中にガンとロッカーがあたる。
伊豆くんはさらに言葉を続けた。
「実を言うと…見たのは、今日が初めてじゃないんだ」
「えっ」
「最初に見たのは…1ヶ月くらい前かな。その時もオレ、自主練で残っていて。女子の部室から物音がしたのを聞いたんだ。女子の部室を見るのはマズいと思ったんだが、部室の電気は消えてるし、もしかして泥棒とかだったらと思って、窓からソッと見たんだ、そしたら…」
私は全身から血の気が引いていくのを感じた。
「桃浜が、お、オナ…」
「言わないで!」
私は羞恥でブルブル震えた。
「恥ずかしい…やだ、私…やだ。バカみたい…」
また私が泣き出すと思ったのか、伊豆くんは慌てた様子で、私に言い聞かすようにして言った。
「だ、大丈夫だ。オレしか気づいてないし、オレは桃浜がバカだなんて思ってない」
「やだ、やだやだやだ…」
「ああ、泣くなよ桃浜。大丈夫だから」
「なんにも…大丈夫じゃない…私ひとりで…こんな、恥ずかしい…」
「桃浜ひとりじゃない!」
伊豆くんは力をこめて言った。
「その、オレも…。桃浜の…エロいとこ見て…オレだって、抑えられなくて…。窓の下で、オレも、やった、から」