第2章 そういうところが好きじゃないんだ
「ひ、どい…よ、伊豆くん…」
「スマン…」
「君がこんなことする人だって…知らなかった…」
私は恨みがましく言った。私は確かに彼を好きではなかったが、彼の裏表のないまっすぐな性格は評価していた。人をむやみに傷つける人間ではないと思っていたのだ。その思いを裏切られたのがショックで、私は彼を批難し続けた。
「人の弱みにつけこんで、押し倒して…。好きでもない女の子にこんなこと…!君が、こんなこと…する人間だったなんて…」
「えっ?それは違うぞ?オレは桃浜が好きだ」
ハァ!?
好きだ、ですって?
彼が緊張感のない声でそんなことを言うので、私はさらにイラついて、少し大声を出した。
「今さらそんなこと言えば許されるとでも思ってるの!?」
「そ、そうじゃないが…桃浜のことがオレは好きで…桃浜だから触りたいと思ったんだし…」
「君が私のこと好きな訳ないでしょう!」
「なんでだ?」
「なんでって…だって、今まで好きって素振りもなかったし、だいたい君は普段から女の子に興味がなかったし…!こんなところで突然好きと言われても、言い逃れにしか聞こえないよ!」
「オレは桃浜には興味がある、だから他の女子には興味はない。それだけだ」
ハァ!?
何なんだろうこの人。
確かに、男女で分かれているとはいえ同じ野球部員。その辺の女子よりは私の方が、彼と接する機会があったかもしれない。でも別に、彼の私への態度が特別好意的だと思ったことはない。他の女子野球部員とそれほど変わらなかった気がする。
「あれっ?オレ桃浜に好きって言ったことなかったっけか?」
「ハァ!?」
三度目のハァが、思わず声に出た。