第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
「ふざけるな!!おれは、こんなことをさせる為にここに連れてきたわけじゃ…」
悲痛な声を上げるローにユーリは振り返ると、そっとその唇に指をあてた。
「私がローの立場だったら、きっと死ぬほど辛い。だから……本当にごめんなさい」
遠くで聞こえていた地響きは、鳴りやんだ。
目の前には、今にも泣きそうな表情のローがいた。
いや、もう彼は、だいぶ前から泣いていたかもしれない。
私と出会わなかったほうが良かったかもしれない、とは言わないでおいた。
それを言ってしまうと、二人の思い出を全て否定してしまうことになるから。
ーーーただ、彼を残して先に逝くのが心配で、心残りだった
ユーリはそっとローに顔を寄せると、キスをした。
血と涙が入り混じる口づけは、二人が歩んで来た道を表しているのだろうか。
いや、もう少し甘くてもいいだろと、ユーリは少し苦笑していた。
口付けが終ると、ユーリは静かにローへ寄り掛かった。
「……ぃ…る…」
ユーリが小さく呟く声が聞こえなかったので、ローは咄嗟に耳を寄せた。
「……愛…し……て…る」
雪が降りそそぐ、フレバンスの丘の上
冷たい風が草花を揺らす中……ユーリは静かに息を引き取った。