第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
二人はフレバンスが一望できる丘に辿り着いた。
1年前は殺風景だったこの場所も、今は美しい花々を咲かせている。
フレバンスには冬でも咲く花があるのだ。
ローは息を荒げながらその場所に座ると、ユーリの安否を確認した。
そして彼女がまだ生きていることに安堵のため息を吐くと、ユーリに視線を送った。
その視線は、早く能力を使えと訴えている。
「……綺麗だね」
ユーリはローから視線を外すと、美しい花々と、フレバンスの街並みを見てそう呟いた。
フレバンスは本当に美しい街である。
それは近隣諸国にも言えることであるが、今は見る影もない。
ユーリはローに背を預けるような形で座り込むと、能力を発動させた。
「病院の食堂のご飯、美味しいからちゃんと食べたがいいよ」
「…ユーリ?」
遠くで僅かに地響きが聞こえてきた。
彼女は回復してるのか?
ローは不安が頭をよぎり、胸のざわつきが収まらなかった。
「フレバンスの国民や周りの国の王と、ちゃんと仲良くしてね。ってローは人望あるから、心配する必要ないかもだけど」
「…おい、何を言っている…なんでそんな話…」
ローはユーリの顔を覗き込んで意味が分からないと訴えるが、彼女は笑みを浮かべているだけだった。
「そういえば洗濯物干しっぱなしだったな。洗い物もしてなかったかも…」
普通に世間話をするかのように、彼女は身の回りのことを話し続けた。
どこに何があって、何がないのか。
話を黙ってい聞いていたローの表情が、だんだん青ざめていった。
「私……とても幸せだったよ。ありがとう」
ーーーそして、ごめんね。
ユーリの右手が、僅かに動いていた。
「…っ!!」
ローはユーリの手を掴み止めさせようとしたが、鳴り響く地響きは収まらなかった。
ユーリが使った最後の力は、無残にも破壊された3つの国を、再生させるものだった。