第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
最初にユーリの様子がおかしいと気づいたのは、シュライヤだった。
その日シュライヤは、バルガス王国を通過してフレバンスへ侵入しようとしている政府の対応に追われていた。
シュライヤだけの意思で追い払うこともできないし、かといってユーリのいるフレバンスへ通す気はなかった。
肝心の国王は引きこもって怯えてるので、どうしたいのかよく分からない。
シュライヤは珍しく国王に怒りを感じており、今の現状に頭を悩ませていた。
そして暫く国境付近で政府と揉めていたのだが、日もだいぶ傾いた頃だろうか、ふらりとユーリが姿を現したのだ。
「…ユーリ?」
シュライヤはなぜユーリがここにいるのか分からず首を傾げていた。
しかしすぐに、彼女の様子がおかしいことに気づいた。
彼女の手には刀のようなものが握られていた。
そしてその刀を振りかざすと、躊躇なく政府へ向けて薙ぎ払った。
刀は赤黒い光で包まれており、その光は兵士たちを飲み込んでいった。
シュライヤは咄嗟に上空へ舞い上がって避けたが、目の前に広がる光景に唖然とした。
1000人程いたと思われる兵士たちは皆、その場に倒れ込んでいたのだ。
「その後シュライヤがユーリの足止めをしてくれたおかげで、辛うじて国民の避難は終わったんだけど…」
ラミアは悲痛な表情を浮かべていた。
ユーリを傷つけないよう気を使ったシュライヤは、重傷を負い意識不明の重体。
彼は駆けつけたギルベルトに保護されたが、ユーリと渡り合える人がいなくなってしまった。
そして国民がいなくなり、もぬけの殻となった王国で、彼女は破壊の限りを尽くした。
もちろん後から増援でやってきた政府も追い払っていたのだが、彼女の行動は殺意に満ちていた。
国民がいないのに、攻撃をやめない意図はなんなのか。
意味もなく攻撃を繰り出す彼女が何を考えているのか、誰も分からなかった。