第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
ユーリは彼の意図をくみ取ったのか、静かに首を振った。
ユーリの身体を操っている者の強さは、並大抵のものではない。
たった1人で何万人と言う兵士達を薙ぎ払っているのだ。
そしてその事実は、世界中に衝撃を与えた。
だから助けるとか、そんな生易しい気持ちで彼女を止めることはできないだろう。
「こんなこと頼んで、申し訳ないのですが…」
ユーリは瞳を閉じると、軽く息を吐き出した。
ローは嫌な予感がした。
「どうか、お願いします…」
ユーリは再び笑った。
その笑みは、彼女を死の淵に追いやった時に見たものと、同じだった。
例えユーリの意識が戻っても、彼女が許されることはないだろう。
それがユーリの意思でやってないに関わらずだ。
ユーリが操られていたなど、どうやって証明すればいい。
ーーーだから
「私を、殺してください」
静かに呟かれたその言葉は、ローが一番聞きなくない言葉だった。
怒りで声を張り上げるにも、言葉は出てこない。
彼女に近づくこともできない。
ローは唯一彼女に向けることのできる視線だけで、怒りと拒否を示していたが、彼女は静かに首を振るだけだった。
「…そろそろ行くね」
ローは言いたいこと、伝えたいことが山ほどあったが、彼女の姿は次第に霞んでいった。
ローがユーリを殺すことなどありえない。
それを望んでいる彼女には、最早怒りの感情しか湧かなかった。
もちろんユーリも、ローにそれを行わさせるのがどんなに酷なことなのか分かっている。
でも、それしか方法はないのだ。
例えローにその気がなくても、そう願わずにはいられなかった。
今回の一件で、ローに対する国民からの非難も少なからず存在していた。
だから、悪の根源である彼女を討ち、再び失った信頼を取り戻して欲しかった。
もちろんそんなこと本人に言えば、ふざけるなと怒鳴られそうだが。
「……ローが私を止めに来てくれるのを…待ってます」
そして、悲痛な表情を浮かべているローを残して、ユーリの姿は消えてしまった。