第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
真っ白い街、真っ白い家、真っ白い部屋の中。
その白い空間は、とても綺麗だった。
そして白い部屋の中には、同じく白いテーブルとイスが置かれている。
ローとユーリはその真っ白な空間の中で、互いに向き合ってイスに座っていた。
「……ごめんなさい」
お互い言葉を発することなく暫くぼーっとしていたのだが、徐にユーリが口を開いた。
それは何に対する謝罪なのか。
ローは問いかけようとしたが、彼は言葉を発することができなかった。
「…政府がフレバンスを支配しようと動き出してしまった。…全て私のせいです。……私が、ローを刺してしまったから」
ユーリの言葉にそれはお前のせいじゃないとローは首を振ったが、彼女は悲しげに笑うだけだった。
ローを傷つけたことは、彼女の心に深い傷を残した。
「フレバンスは辛うじて守っているのですが、近隣諸国は大きな被害を受けている。私の意思では、もうどうすることもできない…」
ローは目を見張った。
守っているとは、現在進行形で争いが起きているという事なのか。
そんなの冗談ではない。
なぜ彼女1人で全て抱え込まなければならないのか。
ローは咄嗟に立ち上がり彼女に近づこうとしたが、身体が動かなかった。
「私の中にいる何かは、フレバンスを破壊する意思はないようですが、近隣諸国は違う。もうこれ以上、破壊を繰り返したくないんです…」
悲しげに笑っていたユーリの瞳から、涙が零れ落ちた。
政府との争いは、近隣諸国を巻き込んで行われている。
争いの舞台は、恐らくフレバンスではなく周りの国なのだろう。
フレバンスに行くためには、他国を通過する必要がある。
ユーリはフレバンスに侵入させないために、他国を破壊してでも政府を止めている。
もちろんそれはユーリの意思ではない。
それは優しい彼女にとって、どんなに酷なことなのか。
それを考えただけで、ローの心は締め付けられた。
ユーリが生きている事実に安心している場合ではない。
このままでは、彼女の心が壊れてしまう。
(今すぐ助けに向かう)
ローはその意思を視線に込めて、ユーリに送った。