第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
以前ローが付けていた虹色の紐は、切れてなくなってしまった。
その瞬間はローが記憶を取り戻した瞬間でもあり、本当に奇跡が起こったのかもしれない。
だから、この先もしユーリに何かあるのならば、今度は彼女に奇跡が起きればいいと思っていた。
因みにローはユーリから一度振られた後、結局その紐を捨てることはできなかった。
かといって鬼哭に付けておくのも気が引けたので、見えない場所である手首に付けていたのだ。
まさかそれにユーリが気づいていたとは知りもしないだろう。
まぁユーリもその件については、特に聞こうとは思ってなかったので丁度良かったのかもしれない。
というかもう忘れてそうである。
「さぁ、帰ろうか!」
ユーリは笑顔でそう言うと、そっとローへ手を差し出してきた。
ローも拒むことなく自然と彼女の手を取り、後は好きにさせていた。
今日は非番なので帰ったらユーリとゆっくりできる。
もう一人医者を雇い始めて半年、漸くローにも余裕が出てきたので、ユーリと過ごす時間は毎日の楽しみだった。
笑顔であれこれ話す彼女を見ていると、疲れもなくなるような気がする。
きっとそう時間が経たない内に、面倒ごとがフレバンスに降りかかるだろう。
だからこのままずっと、こんな穏やかな時が続けばいいと思っていた。