第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
「あっしはこの国が滅んだ経緯を知っていやす。だからこの国を再建させたあんたさん方の邪魔をしようとは思っていない」
藤虎は裏で世界政府がこの国に攻め込むののを、止めていてくれているようだった。
その事実を聞いた時、ユーリは驚きを隠せなかった。
ユーリ達には何の義理もないのに、どうしてここまでしてくれるのだろうか。
ユーリのその疑問に彼は少し寂しそうに笑った。
「何もかも政府が正しいとは限らない。現に今ここで暮らしている民が幸せなのを、あっしは見てきやした。正義を振りかざし、この国を混乱に陥れようなど、あってはならないことだと思いやせんか?」
藤虎のまっすぐな言葉に、ユーリは漸く身体に入れていた力を抜いた。
彼は敵ではない、寧ろ味方だ。
まさかこんな頼りになる人の理解が得られるとは思っていなかっただけに、ユーリは感謝してもしきれなかった。
「ありがとうございます。ドレスローザではあなたの邪魔をしてしまったのに……」
ユーリは数年前の出来事を思い出していた。
確か藤虎はあの後もローを捕らえるために海へ出たはずだ。
さっきの言葉を聞く限り、もうローを捕まえようとは思っていないだろうが、あの時のことを申し訳なく思っていた。
「はっはっは、誰かを守りたいという思いに、善も悪もありやせんよ」
「……ありがとうございます」
藤虎のその言葉に、ユーリは少し泣きそうになった。
本当に彼は芯のしっかりしている素晴らしい人だ。
いっその事フレバンスに暫く滞在して欲しかったが、多忙な彼は無理だろう。というかここに来ていることも色々まずいかもしれない。
「あっしもできる限りのことはしやすが、何時までもつか分かりやせん。どうか気を抜かず、民を守り通してくだせぇ」
藤虎はそう言うと、ユーリに刀とお茶のお礼を言ってその場を立ち去った。
(……政府との衝突は、きっと避けられないだろうなぁ)
ユーリは藤虎が去った後も、暫くその場で考え込んでいたのであった。